創業された方が創業後に行うべきこととして、税務のスケジュール・手続き及び財務面での資金繰りについて確認してきましたが、企業の生命線である資金繰りについてリスク管理の観点からもう少し掘り下げていきます。
資金繰り計画におけるリスク管理とは
企業が資金繰り計画を行う際に留意しておかなければならないのは、想定外のことが起こったことにより、急激に資金繰りが悪化することもあるという点です。そのような時に、資金がショートすることがないよう、どれだけの準備ができているかが重要となります。この準備をここではリスク管理と呼びます。リスクは、大きく分けると次の2つがあります。
1.突発性のあるもので一気に資金繰りが悪化するもの
(1) 経営者等の現場からの離脱による収益の悪化
中小企業の経営は、経営者の力量に非常に左右されます。よって経営者に事故、病気等の不測の理由により、現場に出ることが出来なくなった場合には、急激に資金繰りが悪化することとなります。
このリスクに備える手段として必要なのは、立て直しのための時間=お金を用意しておくことです。経営者が現場に出ることが出来なくなっても時間は止まりません。売上が減少しても、家賃・人件費等の固定費の支払い及び借入金の返済は続いていきます。後継者がいる場合は、後継者が従前の営業体制まで立て直すまで、経営者ご自身の現場復帰が可能であれば、現場復帰までに資金ショートすることのないように備えておくことが必要となります。
これに有効なのは、生命保険の活用です。小規模な企業であればある程、経営者に依存することとなるため、掛捨てで結構ですので、小さい負担で大きな保証を取れる生命保険に加入しておかなければなりません。保障金額の考え方については別の記事で取り上げることとします。
これで死亡による現場離脱からの備えは担保できましたが、忘れてはならないのは、このタイプの保険で保険金が支払われるのは、被保険者が死亡した場合のみです。就業不能となった場合には、保険金は支払われません。よって、就業不能となった場合に保険金が支払われるタイプの保険にも加入しておく必要があります。
あと、よくあるのが、現場を全て1人の仕事のできる従業員に任せていたが、その従業員が事故、病気等に遭う、又は従業員の突然の退職による現場からの離脱です。最悪の場合既存の顧客を根こそぎ持って退職されるというケースもあります。企業規模により異なってきますが、経営者もしくは、他の従業員でも代替の利く体制作りをしていなければ、一気に資金繰りが悪化することとなるので注意が必要です。
(2) 損害賠償による収益の悪化
企業として活動を行っていると色々な場面で他人の身体・財物に関わる事故を起こし、損害賠償を求められるケースが考えられます。これは企業外部に関わらず企業内部(従業員・従業員の家族)からも損害賠償を求められることもあります。この頃は損害賠償額も年々高額になってきています。業種により様々な損害賠償のリスクがあるかと思われるため、リスクを把握し、損害賠償保険に加入しておかなければ急激に資金繰りが悪化、又は資金ショートを起こすこととなります。また保険の加入だけでなく、事故が発生する確率が少しでも低くなるような業務体制の確立も必要です。
(3) 結局保険に入れってことなの?
ここまでのお話しでは、結局保険に入れってこと?とお思いの方もいらっしゃるかと思います。そうです。保険に入って下さい。大企業はともかく、中小企業は1度のミス(上記(1),(2)による急激な資金繰りの悪化)が取返しのつかないこととなります。そこに対する備えがなければ、経営者並びにご家族は借金を背負っていかなければならなくなりますし、従業員及びそのご家族は働き口がなくなり露頭に迷いかねません。
そもそも保険の趣旨は相互扶助の考えで、各々が少しずつ負担し合って、不測の場合に備えることです。保険料負担を毛嫌いされる経営者の方もいらっしゃいますが、これは必要なものと観念して下さい。この費用負担を踏まえた上で利益を残す計画を立てて下さい。
金融機関も融資の判断を行う際には、決算書の数字等の定量評価をベースにしていますが、経営者の資質も含めて判断する定性評価の考えも行おうとしてきています。金融機関の立場に立つと、もしもの時に備えている経営者と備えていない経営者がいる場合、どちらの経営者にお金を貸す方が、回収リスクが少ないと判断されるでしょうか。答えは決まっていますよね。過度な保険料は利益及び資金繰りを圧迫し、融資に悪影響を及ぼしますが、必要最小限の保険料については、その企業の融資調達力にもプラスに作用することを認識する必要があります。
私も以前は、税理士が保険の話をするなんてと思って保険のお話しは全くしていませんでした。でも今は企業の業績、資金繰りを1番把握している税理士でなければ適正な金額を出せないと思っています。お客様がずっと笑顔でいられるようにという経営理念のもと、必要保障額の算定については、弊所の標準業務としてご提案させていだきます。
2.突発性はそこまでないが、計画どおりに事が進まず資金繰りが悪化するもの
比較的創業時から間もなく成功を納められた経営者の方に多いのですが、企業の実力以上に事業を攻めすぎ、持ち合わせた経営資源の全てを出し切ってぎりぎりの資金繰りで勝負される方がいらっしゃいます。総じて今まで失敗したことがないので、資金繰り計画も今までと同じポジティブなものとなっています。
このような場合、計画通りの数字とならなかったときには、一気に資金ショートを起こし、今まで成功していた既存事業をも廃業せざるを得ない状況に陥る可能性があります。
ポジティブに物事をお考えになることについては否定しません。やる前から負けることを考えていてはそもそも成功しませんしね。しかし、中小企業の企業経営では1つのミスが取返しのつかないこととなる場合があります。このリスクを回避するには、財務戦略の確立が必要となります。
財務戦略とは、金融機関からの資金調達及び資金繰り計画をしっかり行うことです。設備投資等を行う前に資金繰り計画を立てておき、資金繰り面での最低限達成すべき売上額等を検証した上で意思決定を行うことに加え、それ以前に既存事業の業績により金融機関からの資金調達を最大限に受けて資金のダムを作っておくことで、計画通りに行かなかった場合でも、資金ショートを回避することができます。業績悪化した場合の資金調達は容易ではありません。よって、業績がいい時に最大限に受けておくことが重要です。
そのためにも自己資本の充実や財務戦略をしっかり確立するまでは、お気持ちはわかりますが出来るだけリスクを取らない経営を行うことが必要です。
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